正傳寺

正伝寺は、グリーンホール田原から南へ500メートルの丘陵上にあり、写実性と剛健さに富み、人間味あふれた作品という鎌倉美術の典型的な薬師如来が鎮座している。薬師如来は諸病を除き、人間を病魔から守ってくださるありがたい仏様で、左手に薬壺を持っているのですぐ分かる。ここの薬師如来は2メートルほどの檜材の一木造で、右手を与願印、左手に薬壺を乗せて、40センチの蓮華座の上に立ち、両脇に金銅像の日光・月光菩薩を配している。

地区では78日を薬師さんの縁日と定め、森山・佐水地区の人たちを中心に薬師堂に集まり、悪病退散の祈りを続けている。


薬師如来立像

種類 彫刻第1号 平成23年度指定

   高さ約2メートル

 正傳寺薬師堂の本尊であるこの仏像は、等身を越える堂々とした像で、両手首先と両足先を除いてほぼ全容を一木で制作したもの。着衣の形は7世紀後半の法輪寺薬師如来座像から見られ、9世紀には例がやや多いが10世紀には余り見られないもので、古い着衣の事例であるが、衣文の彫が浅いこと、側面観がやや浅いことから、10世紀平安時代の作と考えられる。本像は通常の如来像と異なり、右手を下げて左手を上げている稀有な例で、またこれほどの大像は珍しく、市内最古の本格的な彫刻である。


郷土史かるた

()(たか)(さと) 正伝寺(しょうでんじ) 鎌倉(かまくら)(ぶつ)薬師(やくし)さん

 標高160メートルに開けた田原村民の、治病医学の本尊として、信仰を集めた700年間の鎌倉仏。薬師信仰の盛んなところ、そこは地高く、空気美しくして水清く、近くに薬草多しと云う。正伝寺は仏法山と号して融通念仏宗。年輪を思わせる額を本堂前に掲げてある。


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腰痛こしいた地蔵じぞう 数珠じゅずまわして 念仏ねんぶつとなえる

 正伝寺の境内にある下半身だけの地蔵さんである。「為身体堅固腰痛平癒祈願之塔」という札がかかっている。「数珠(じゅず)くり」といって、広げると周囲10メートルほどある数珠を握り、20人ばかりが輪を作り「般若心経(はんやしんきょう)」にあわせて口々に念仏を唱えながら百回ぐらい廻す。

                                                                                                                               

火の用心ようじん 正伝寺しょうでんじのこる うんりゅうすい

 正伝寺の縁側の天井に水ポンプが掲げてある。幕末に発明された雲龍水の消火器である。「雲龍水、水立ち昇ること数丈、呼吸なくして水勢強く、火消第一の器なり」と宣伝され、明治末まで使用していた。江戸期の火事対処法としては、「出火これあり候は、声を立て、太鼓を打ち、村中の者馳せ集まり精を出し火を消すべし」と云う文書も残っている。木造建築のわが国において、地震、雷、火事はとても恐いものであった。これらの災害は出火を伴い、すべてが消失してしまうからである。


火から まもる 愛宕あたご常夜じょうやとう

 正伝寺の境内に1基の「愛宕山」と彫られた常夜燈が見られる。昔も今も火事ほど怖いものはない。ことに藁葺き(わらぶき)の屋根構造であった江戸時代には、延焼を防ぐには隣の家を叩き壊すしか火勢をくいとめることはできなかった。また、神仏に頼るしかない。京都の北西にある愛宕山の防火神・愛宕神社におまいりに行くが、遠方なのでなかなか出かけることができない。そこで、村ごとに常夜燈を祀っている。また、村の代表が愛宕さんにお参りし、みんなのお札をいただいてくるのである。こんな行事もまだ残っているところがある。