お月見(つきみ)どろぼう

 田原地区に残る伝統行事で、仲秋の名月を拝み、名月の映える天野川で手を清め、悪病を洗い流すという信仰心に付随した「芋たばり(賜り)」が変じていもドロボー、お月見どろぼうに変化した素朴な遊びであった、と思われる。子ども達は顔を見せず、細い竹を持って、縁側に供えられた芋や団子を刺して取る、1年に一度許された「泥棒」のスリルを楽しんだ。暗くなって出かけ、子ども達が隠れてひそかなスリルを楽しむというこの行事は、豊かな地域社会の上にはじめて成り立つもので、今も続く地域の力が伝統行事の源泉といえよう。


傍示(ほうじ)(つぼ)

 羽衣橋付近や田原中学校裏山等に今も見ることが出来る、村境境界標識の竹杭を打ち込んだ場所がある。この傍示坪に竹杭を打ち込むことを、傍示挿しと云い、毎年1月に上・下田原両区合同で行われている。傍示坪は田原支所と室池東堤を結ぶ上田原・下田原両村の境界線上の尾根に約10箇所、室池東堤より上田原・下田原それぞれ東西に分かれて各40箇所にある。毎年一本づつ打ち込まれた竹は、それぞれ年月とともに朽ち果てたものから前年の真新しい竹まで、混在し、その状態のまま坪が動かせないようになっており、境界が動かせない、固定される仕掛けとなっている。まさに先人の智恵といえるだろう。

 なお、地域の先人から引き継ぎ、毎年行われてきた傍示挿しの行事であるが、開発が進んだり、現況が著しく変節していることから、境界線上を歩くこと自体が困難となったことから、平成27年をもって中止となった。